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宮崎県えびの市の地下式横穴(地面に穴を掘り、その側面から横穴墓を掘ったもの)から6世紀の金象嵌のある鉗(カナハシ)が出土したと報じられました。
金属の熱間加工では加熱する炉と温度を上げる送風設備(フイゴ)、材料を叩く鉄床(カナトコ)と鉄鎚(カナヅチ)、それに加熱した素材を保持するカナハシが重要な道具です。現在の鍛冶業で使うカナハシは古代ギリシャの壺絵に同じものが出ており、作業に応じた色々な形、鍛造以外にも鋳造の坩堝を挟んで持ち上げる物など多種類のカナハシがありました。
ただし世界的には金属加工の象徴としては鉄鎚や鉄床、送風機のフイゴなどが用いられることが多く、鍛冶神を崇拝した北欧には鉄鎚や鉄床をかたどった祭器や装身具がありますが、カナハシは近代以後の鉱業・金属加工業のマークに見える程度です。
ただ代用品が自然石で間に合う鉄鎚・鉄床に対してカナハシは簡単に調達できず、古代律令の軍防令では軍団兵士10人ごとの装備に鉗があり、『後三年合戦記』では金沢の柵が落城した時、城内から源氏の兵をののしっていた千任丸なる武士を「えびらより金ばしをとり出し」て歯を砕き舌を引き出して切った、とありますから、武士も武器・武具の修理のためにカナハシを携行していたのでしょう。
えびの市出土のカナハシは長さ15センチとありますから、実用品でなく副葬用の祭器かも知れません。『地獄草紙』では鬼が亡者を拷問する道具にカナハシがありますから、何か鍛冶業以外の用途に使ったものの祭器という可能性もありますが。
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