2008年8月1日 第6回出題「長船祐定


 今回の出題刀は、「備前国住長船祐定(永正年紀)」でした。

 今回は、一ノ札で「与三左衛門尉祐定」の個銘「当」が多く、参加者の見識の高さが伺えました。
 一部、応永備前や慶長新刀に見られた方がいましたが、二尺一寸三分余の刃長に鎬が高いという特徴から、末古刀と直感していただきたいと思います。

 「鎬が高い」とは、言い換えれば鎬地が薄く作られ、刀身の断面が菱形状になったものをいいます。
 「鎬が高い」と表現すればすぐに連想するのは「大和伝」ですが、これも早計であり、やはり時代の「刀姿」を考えなければなりません。
 また刃文でありますが、腰の開いた乱れと乱れの間に浅い五ノ目乱れが混じれば室町前期の作、腰の開いた乱れが連続するのは室町後期の作と見るべきと、本阿弥光遜先生が何かの本で記述されていたのを記憶しております。  

 今回の出題刀の彫り物の「四けつ」ですが、珍しい彫り物であります。
 これは修法壇(祭壇)の四隅に立てて、壇に結界を張る法具で「金剛けつ」あるいは「四方けつ」とも言います。
 壇上を金剛の様に堅固にし、他からの障碍(障害:いま風に言い換えれば悪霊など。)を防ぐためのものです。
 マンガの犬夜叉を思い出しますね。
 (好色法師が良く結界を張ってました。)
 形状は金剛杵をかたどったようなもので、長さは一尺位、中央に鬼目を作り、上下に蓮華文をつくります。
 「けつ」には金剛界けつ(独鈷形のもの、または独鈷形鉾の先に宝珠を載せたもの。)と胎蔵界けつ(すぼんだ蓮華の鉾を作るものと、その先に宝珠をつけたもの。)の二通りがあると言われております。
 刀剣の彫り物としては、備前の倫光や応永信国、末相州の広正、金重などに見られます。

 今回は末備前の俗名のない祐定でしたが、末備前の俗名のないものを数打ち云々と、まことしやかに言われる人たちがいますが、これは全く根拠のないことであります。
 それでは何を持って注文打ちか?
 皆さん解りますか? 

 地鉄が良い、地鉄に潤いがある、などとお考えの方、はずれではありませんが末備前の良い作品を見る機会が御座いましたらナカゴを良く見て下さい。
 茎の肉置きや鑢の掛け方、目釘穴の開け方など仔細に観察すると、入念に作られたものはある種の感動さえ憶えます。
 良くナカゴ千両という言葉がありますが、先人たちが数打ち物と入念作(注文作)との判別に使った、鑑定用語かも知れませんね。

 今回、末備前の代表選手「祐定」は、堪能されましたでしょうか?
 それでは次回をお楽しみに。

                              竹 屋 主 人