2013年1月1日 第10回出題「津田越前守助広」


 今回の答えは、「津田越前守助広」でした。

 大坂新刀の双璧といわれる、「井上真改」と「津田助広」ですが、過去問を紐解くとなんと、これ程の巨匠が今回初出題とは気が付きませんでした。
 2007年に始まった電脳鑑定倶楽部ですが、新旧の参加者に支えられ、やっと、「津田越前守助広」を出題することができました。
 これからも、ご愛顧のほどを宜しくお願いします。

 さて、助広ですが、鑑定会などでは定番の刀工で、実際に手に取って拝見された経験のある方が多いと思います。
 今回もほとんどの方が一ノ札で、「当」を取っておられ、所見もしっかりとした内容のものが多かったように感じます。

 初代そぼろ助広に鍛刀を学び、その後、養子となり、先代の跡を継ぐと言われていますが、初代の実子と見るのが至当だと、「日本刀鑑定要訣」の著者「館平吉氏」は、その書の中で述べられています。

 助広は、濤瀾刃という古刀期には見られない独特な刃文と、茎の化粧鑢を創始したことで有名でありますが、湾れや、濤瀾刃以外に直刃の作にも秀逸なものが見受けられます。

 この直刃は、素見すると見逃しやすい特徴があり、沸足を伴わずに直調に5つ浅く湾れるのを見所としています。
 この刃文に沸足や五の目足が入れば、地鉄の精美さから肥前新刀とか井上真改、あるいは、弟子の近江守助直などに入札するのが常套のようです。

 ここで、真改と助広の相違について簡単にお話しをしましょう。
 先ずは刀姿が異なることです。
 両者ともに所謂寛文新刀体配でありますが、助広の場合は全体的に身幅が細く感じられ、特に物打ち付近はシャープなフォルムを醸し出しているのに対して、真改の場合は全体的に身幅が広く感じられ、物打ち付近では張ったようで、切っ先がやや延び心となるものが多いようです。

 助広の特徴の一つとして、「卸しが急」になり、あたかも坂倉言之進照包の作品を見るような感じがすることです。
 照包も濤瀾風な刃を焼きますが、片矢筈と呼ばれる独特な乱れ刃であり、長い焼き出しがありますが、助広の焼き出しは短く一見して相違の解るものです。

 助広はご存じのとおり作刀時期の変遷に伴い銘字も変化しており、前期の角津田銘から後期の近衛流草書体、いわゆる、丸津田銘と作刀時期に応じた銘振りとなっています。
 特に、丸津田銘で縦長に銘が切られているものに、優品が多いと聞いています。

 もう、何年になるでしょうか。
 年に一度東京都内で開催される「大刀剣市」において、助広作の「村雨」と号する異形の刀が売りに出され、その当時重要刀剣に指定されていないにも係らず、破格の1億円と噂されていたのを記憶していますが、庶民にとっては夢のようなお話でした。
 ちなみに現在は、特別重要刀剣に指定されています。

 この時代の多くの刀工は、古刀に比べて非常に個性が強く、この個性が鑑定の要訣となります。
 それを各個に見破って行くことで、流派なり個銘が見えてくるということでしょうか。

 それでは今回はこの辺失礼します。


私の見方

じじきさん
地刃の出来が極めて優れた印象であり、明るく冴えた浅い湾れの刃文から「津田越前守助広」をまずは想起しました。茎掟も鑢目が大筋違いに化粧付き、また、通常七字銘というヒントも助広を示唆していると捉えました。よって、「津田越前守助広」に入札します。

よっちゃんさん
鑑定刀は匂口が深く、押し型では大阪新刀か薩摩新刀の様で、化粧鑢が付、帽子の焼きが深く、地刃、共に明るく冴える様子から大阪新刀と観て、刃の湾れ具合から 銘 助廣 とします。

千手院義弘さん
津田越前守助広「寛文新刀の体配・地鉄も刃文も明るく冴える出来で浅い湾れの通常七字銘。」などから答えに行き着きました。


※じじきさん、初入札で見事な所見有難うございます。今後も宜しくお願いします。