日本刀剣随想-正宗展-富山水墨美術館編:記/越中国住人




日本刀というと、近寄りがたい怖いものであるという印象を受ける方もおられると
思います。確かに日本刀は平安時代から幕末まで武器であったと言う事は疑い様の
ない事実です。しかし、日本刀は、単なる武器としての実用的な範囲を超えた美術性、
精神性、宗教性を兼ね備えた素晴らしい美術工芸品として世界的にも高い評価を受け
ていることもまた疑い様のない事実です。

 日本刀は、刀剣としての実用性を最大の目的としながらも、可能な限り美観を追い
求め、見た目にも美しいものとして作られています。例えば刀工が作刀の最終工程で
行う焼き入れ作業の結果表れる刃文には、意識的に山、風、花、波頭、雲、木立など
刀工自身が美しいと思ったものが生き生きと表現されています。

 また、刃と地鉄の境に表れた、磨かれた鋼の微粒子を光に透かすと、夜の空に眩い
ばかりに輝く星や天の川のように見えると言われています。
 これは豊かな四季に恵まれた環境に培われた、日本人特有の気配りや感性、そして
自然に対する深い尊敬が顕れているものだと思います。古来より、日本刀は、身を守る
もの、運命を切り開くもの、心の中の邪気を祓うもの、神に捧げるものとして扱われ、
子供が生まれると健やかな成長を願い、守り刀として持たせたり、また熱田神宮の
「草薙の剣」のようにご神体となっていたりと日本人の生活に深い関わりを持って
います。

 現在、水墨美術館で開催されている特別展「正宗」日本刀の天才とその系譜に出品
されている刀は、現存する日本刀の中でも国宝8点、重要文化財14点、重要美術品
5点を含む最高級の逸品ばかり約50点で、これほどの作品が一堂に会する全国的に
見ても初めてのことであり、これらを富山で見られる大変素晴らしい事だと思います。

 正宗の作品は、鋼の微粒子の輝きが際立ち、その粒子によって描かれる文様は多様
に変化して、見る人の心に幻想的な魅力を感じさせると言われ、京や備前の刃文が
大和絵風であるのに対して、正宗の作風は水墨画に見る破墨山水に例えられています。
また江戸時代には正宗を中心とする鎌倉時代から南北朝に活躍した相州伝の上工の作品
を所有することが、大名としての身分と家格を示す物として考えられていましたので
作品の多くが大名家の家宝として秘蔵され、現在でも一般に公開される機会が少ない
のが現状です。

 このような稀有の機会を逃さず一人でもたくさんの方が、この素晴らしい作品に
接していただけることを願ってやみません。
 私たち、日本美術刀剣保存協会の会員は、普段より歴史や日本刀の研究、鑑定や、
刀剣に関する展覧会の解説などの活動を行っています。今回も来場いただいた方々に
日本刀をより深く理解していただくために、休日などを利用してボランティアで解説
に出ています。ご来場の際は、遠慮なく声をかけていただきたいと思います。



●深謝●

日本刀剣電脳倶楽部「一陽来復BBS」/越中国住人様御発言より抜粋掲載